私は気がつくと、真っ暗い場所に居た。
コントラスト調整。
彩度調整。
光量調整。
周囲が分かる。
辺り一面、人間が倒れている。しかもそれは、全て私だ。
どうやら私はうっかり、画面の端っこに入り込んでしまったらしい。
倒れているのは今までに失われた私。私が殺した私。姉さんが殺した私、だ。
生きている私はここから出なくてはならない。
自宅のWi-Fiは届いているらしい。私は慣れた手つきで自撮りをして、SNSに投稿する。
「イェーイ、今暗い空間に居る!ははははは #助けてください」
と、思ったが私はSNSなんて一度もやった事はなかった。仕方がないので、アカウント開設から始める事にする。
私の死体の山に座り込む。刺殺死体を避けながら。あんなものの上に座ったら、服が血でジャバジャバになってしまう!
私の死体は全て、まったく安らかな顔をしていない。苦痛に顔を歪めてとても辛そうだ。
その様が自分自身でありながら少し滑稽だった。
早くSNSでシェアしたい。皆とこの気持を分かち合いたい。あとモテたい。
それでなんか、本とか出したい。
新規登録のページにたどり着く。ここまでに1時間有してしまった。
何分私は普段、警視庁のホームページにしかアクセスしないので、まずSNSについても詳しくはなかったのだ。
テレビのニュースから流れてくる何れかのイメージだけでSNSを認識していた。
SNSには、いじめと、暴力と、オタクで溢れている!
「よっしゃあ!」
暗い空間で私の声がどこまでも遠くに吸い込まれていく。
この空間は相当広いらしい、私は一体いつここを抜け出せるのだろう?
しかし今はそんな事どうだっていい!SNSだ!SNSを!
私は気合を入れて、新規登録という名の試練に立ち向かおうと思う。
規約に目を通す。
「あなたは猫が好きですか」
同意と、同意しない、ふたつの選択肢がある。私はもちろん好きなので、同意する。
「人為を超えた自然的脅威を前にした時、あなたは逃げ出さず立ち向かっていきますか」
同意と、同意しない、私は迷ったが、同意する。
「もしも全知全能の力を手に入れたとして、あなたはその力で無力な劣等種共を使える、使えない、その二種類に選別していきますか」
「していきます!」
私は声を上げて同意した。
「天と地が分かたれて久しいですが、第二次世界再構築の時が訪れた時、あなたは最後の日をどう過ごしますか」
ここは4択になっていた。
1. 家族や恋人、友人と過ごす
2. その瞬間まで眠って過ごす
3. とりあえず神に祈る
4. 最後の日、混乱に生じて軽犯罪を起こす
「4!4!4!4!」
「おめでとうございます。あなたは等SNSを利用するのに値する人間であると認識しました。ようこそ!いじめと、暴力と、オタクの世界へ!」
「やったあ!」
私は手を振り上げて喜んだ、その手が血で滑って、スマホが円を描き飛んでいく。
その瞬間がスローモーション。感動的な音楽。ワイプで抜かれる私の顔。
「あ~あ」
当然スマホは私の死体の上に着地する。血。刺殺死体。許せない、誰だ私を刺したのは?
私だ。
スマホを拾い上げようとかがんだ時、私は気付いた。私が今までスマホだと思っていたのは、子供の頃に無くした猫のぬいぐるみだった。
「なんだ、お前も死んでいたのか」
ぬいぐるみは腕と頭がなかった。
それでも私が思い出のミーちゃんだと気づけたのは、
腹部に大きくお気に入りのラメペンで「劣等種」と書いてあったから。
私は平静さを取り戻して、出口を探す事にした。
早く家に帰って、血で汚れてしまったミーちゃんを洗わなくてはならない。
死体の山を登ってインターバル、登ってインターバル、高山病、インターバル。
想像以上に私は死んでいる様だ。登っても登っても終わりがない。下っても下っても次には大きな死体の山。
「やれやれ、うんざりしてきたな」
専門家の監修のもと行っています。
テロップが下に表示される。私は少々機嫌が悪くなってきていたので、足で文字を踏み潰す。
修行っています。
じっと字を見つめていると姉さんの事を思い出した。
姉さん何してるかな。
ご飯食べてるかな。
人殺してるかな。
感傷に浸っていると、頭上から新しく死体が降ってきた。まごうことなき私だ。
歯を食いしばって、目をつむっている。この傷口は、姉さんのメインウェポン、クラウソラスによるものだろう。
姉さんを怒らせるからそんな事になるのだ。
何だか漠然とした虚しさを感じた。私はいつになったらこの世界を抜け出せるんだろう?
死体の山のてっぺんに仰向けで寝転がった。見えない空をミーちゃんと眺める。
私はこれからどうするべきか、考えるのも嫌になってしまった。
「私はもう死んでいるのかな」
私は横で寝ている劣等種に話しかける。ミーちゃんは頭がないので、話す事は出来ない。
代わりに、ちぎれた腕から綿がどぼどぼ出た。これは肯定の意だ。
「そうか……」
私はこの世界から出る事を諦めて、タピオカミルクティー屋を開く事にした。
タピオカも無ければミルクティーも無いが、私がここはタピオカミルクティー屋だと言えばタピオカミルクティー屋だ。
これは世界の真理であり、死人しか居ないこの場所では私が神と言っても良い!
ようこそ、死体と、死体と、死体の世界へ!死体の山のてっぺん、本日も営業中!